東京オリンピックのアリーナや大阪・関西万博の大屋根リングなど、最近は木造建築物をよく目にします。
デザイン的に良いのみではなく、カーボンニュートラルの観点からも非常に良い木造建築、その中でも木造のビルの最新動向について少し見てみたいと思います。

木造ビルの現況

2024年4月現在、日本で一番高い木造ビルは横浜市にある「Port Plus大林組横浜研修所」で約44m、地上11階建てです。ちなみに日本で一番高い木造建築は、京都の「教王護国寺(東寺)」の五重塔で高さ約55mです。弘法大師が建立した建物がいまだに日本一というのも、何とも感慨深いですね。
この弘法大師を超える木造ビルが、東京日本橋に現在建設中です。地上18階建てで、高さは約84mになるとのことで、2026年に竣工予定です。

出典:大林組「日本初の高層純木造耐火建築物「Port Plus」」
https://www.oyproject.com/

世界に目を向けてみると、アメリカのミルウォーキーにある「アセントタワー」が25階建て、約86mで世界で一番高い木造ビルです。また、オーストラリアのシドニーでは、こちらも大林組が手掛ける「アトラシアン・セントラル」が2026年の竣工を目指して建設中で、こちらは39階建て高さ約182mになる予定です。

出典:大林組ホームページ「「アトラシアン・セントラル新築工事」を受注」
https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news20220824_1.html

木造ビルが増えてきた理由

ご紹介した通り、近年どんどん増えてきている木造ビルですが、その理由としていくつか考えられます。

まず、そのデザイン性の高さが挙げられます。木目を活かしたデザインはなによりかっこいいです。風景にもマッチしますし、温かみや安心感を与えてくれたりします。いかにも環境へ配慮しているというイメージも受けますよね。

次にあげられるのは環境への配慮です。イメージだけではなく、実際に環境への効果がいくつもあります。
日本の国土の約60%は森林が占めており、人工林の半数は樹齢50年を超え成熟期に入っています。一般的に樹齢20年を超えるとCO2の吸収量が減少してしまいます。カーボンニュートラル実現のためには木材を利用し森林を循環させ、吸収力を向上させる必要があります。また、樹木が吸収したCO2を固定・貯蔵するという意味合いでも、木材を利用した建築物には意義があります。
また、木材は製造・加工時のエネルギー消費が鉄やコンクリートの建築資材よりも比較的少ないことから、CO2排出量の削減に貢献します。地元産の木材を利用すれば、さらに運搬時のCO2排出量も抑制できます。プレカット材などを使用すると、建築時には大きな重機を使用しなくても良くなるなどのメリットもあるようです。
さらに、木材は鉄やコンクリートと比較すると、はるかに熱伝導率が低く断熱性が高いため、冷暖房などのかかる光熱費を抑えられることも大きなメリットの1つです。

木造ビルの課題

木造ビルと聞いて真っ先に心配になるのが、強度と耐火ではないでしょうか。
強度や耐火性能については高層ビルに使用しても問題ない程の木質建材が開発されています。代表例となるのがCLT(Cross Laminated Timber)で繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料です。1990年代からヨーロッパを中心に利用が始まり、日本でも2016年にCLT関連の建築基準法が施行され、一般利用されています。コンクリートと比較しても遜色ない強度があり、耐火については木材なので基本的に可燃性ではあるものの、毎分約1mmの速度でゆっくり燃え進む耐火性能があります。また、大規模な耐火建築物については、石膏ボードなどで耐火被覆することで対応が可能になっています。
ちなみに大阪・関西万博の大屋根リングもこのCLTで作られているそうです。

強度や耐火についての課題はクリアできるものの、次の課題になるのがコストです。今後普及が進むことでコストダウンが見込めますが、今の所は鉄筋コンクリート造のものと比較して約3割程コスト増になるようです。

まとめ

木造ビルが徐々に増えてきています。新しいビルのオープンの情報でも木造ビルの情報を見かけることも多くなってきています。今回ご紹介した通り、カーボンニュートラルの観点でもとても意味のある木造ビルです。今の動きを一過性で終わらせる手はありません。自社ビルを木造ビルにすると、環境配慮などへのブランディングの面で強力なアピールに繋がりますし、色々なメリットがあります。自社ビル建設をご検討中の方は、是非候補としてみてはいかがでしょうか?