GXを学ぶ
Learn About GX
- 2026.4.7
GX-ETSは“他人事”ではない ― 地政学とともに変わるビジネスのルール
2026年4月から、日本においてGX-ETS(排出量取引制度)が本格的に始まります。対象となるのは主に一定規模以上の企業であり、多くの中堅・中小企業にとっては直接の制度対象ではありません。そのため、「自社には関係がない」と感じている方もいるかもしれません。
しかし実際には、この制度はサプライチェーン全体を通じて企業活動に影響を及ぼしていきます。さらに近年は、エネルギーや資源、国際ルールをめぐる地政学的な変化も重なり、GXは単なる環境対応ではなく、企業経営の前提そのものを左右するテーマになりつつあります。いま問われているのは、「対象かどうか」ではなく、「この変化にどう向き合うか」です。
GX-ETSとは何か
排出量取引制度とは、企業ごとに温室効果ガスの排出量に一定の枠(キャップ)を設け、その範囲内で削減や取引を行う仕組みです。GX-ETSでは、制度対象となる事業者に対して排出枠が政府から無償で割り当てられます。
事業者は、自社のCO₂排出量(Scope1)をこの枠の中に収めることが求められます。排出量を枠より少なく抑えれば余剰分を売却でき、逆に枠を超えた場合には不足分を購入する必要があります。なお、制度の対象は、直近3年度の平均で年間10万トン以上のCO₂を排出する事業者とされています。
制度の詳細は経済産業省やGXリーグの資料に譲りますが、本質はシンプルです。炭素に価格がつくことで、排出の多い活動にはコストが生じ、低炭素な取り組みがより評価されるようになります。これまで見えにくかった環境負荷が、経済活動の中に組み込まれていく――それがこの制度の本質です。
GXはなぜ地政学と結びつくのか?
この動きには、地政学の視点が重なりつつあります。近年、エネルギー安全保障や資源価格の変動、サプライチェーンの分断といった動きが顕在化しています。こうした中で、再生可能エネルギーや電化の推進は、脱炭素の観点にとどまらず、エネルギーの安定確保や価格変動リスクの低減にもつながります。
また、各国でカーボンプライシングや関連規制の導入・強化が進む中、国境を越えた取引においても「炭素」が評価軸として組み込まれつつあります。GXは、環境と経済に加え、安全保障とも密接に関わる領域へと広がっているのです。
GX-ETSの対象外でも無関係ではない ― 企業への示唆
では、制度の対象外である企業には、どのような影響があるのでしょうか。
まず、GX-ETSそのものによる影響として、エネルギーや燃料の調達を通じた変化が挙げられます。GX-ETSはScope1(直接排出)を対象とする制度であるため、対象企業は燃料使用に伴う排出削減を進めることになります。その結果、より排出の少ない燃料や電力への転換が進み、エネルギーの調達構造や価格に変化が生じる可能性があります。
制度の対象外であっても、電力料金の上昇や価格変動、低炭素電源への切り替えに伴うコストの変化、さらには燃料調達先の見直しなどを通じて、間接的な影響を受けることが考えられます。
次に、コスト構造の変化です。炭素コストはエネルギー価格や原材料価格に反映される可能性があり、地政学的な要因による価格変動とも重なって、不確実性は一層高まっています。
競争環境も変化しています。低炭素な製品やサービスの価値が高まり、環境対応が進んでいる企業が選ばれやすくなります。加えて、国際的なルール形成も進んでおり、輸出入において炭素が評価軸となる場面も増えています。対応の有無が、ビジネス機会そのものに影響する可能性があります。
また、金融の世界でも変化が進んでいます。脱炭素への取り組みは、融資や投資の判断において重要な要素となり、資金調達にも影響を与え始めています。
GX-ETSとは別の動きとして、金融庁ではプライム上場企業を対象としたサステナビリティ情報開示の制度設計が進められており、2027年3月期から段階的に適用が始まる予定です。この制度では、企業はサプライチェーン全体の排出(Scope3)の把握と開示が求められるようになります。そのため、取引先に対して排出量データの提供や削減の取り組みを求める動きが一層強まると考えられます。
こうした流れの中で、より低炭素な製品やサービスが選ばれる傾向は、今後さらに強まっていくと考えられます。
いま企業が取るべき一歩とは?
こうした変化に対して、今からできることは決して難しいものではありません。まずは、自社のエネルギー使用状況や温室効果ガスの排出量を大まかに把握すること。そして、主要な取引先の動向を確認することが重要です。
その上で、省エネルギーの推進や設備の効率化、再生可能エネルギーの活用など、自社に合った取り組みを少しずつ検討していくことが現実的な第一歩となります。また、こうした取り組みを適切に社内外へ伝えていくことも、今後ますます重要になっていきます。
GXはひとりで考えないことが鍵
GXは単なる技術やコストの問題ではなく、経営そのものに関わるテーマです。政策、技術、市場、そして地政学的な動きが重なり合う中で、自社だけで全体像を捉えるのは容易ではありません。そのため、GXについて体系的に学び、他の企業と議論できる場の重要性が高まっています。異業種との対話を通じて、新たな視点や気づきを得ることができます。
現在、北九州GX推進コンソーシアムでは、令和8年度のGXビジネススクールの企画が進められています。これまでの開催を通じて、地元企業を中心に異業種が集い、互いに学び合うコミュニティとして発展しつつあります。こうした機会を活用することで、GXを単なる「対応すべき課題」ではなく、「競争力の源泉」として捉え直すことができるはずです。
GXは準備した企業が勝つ
GX-ETSの開始は、変化のスタートラインにすぎません。いまはまだ、準備ができる数少ないタイミングです。このタイミングでどのような一歩を踏み出すかが、数年後の競争力を大きく左右します。
GXの変化を受け身で迎えるのか、それとも主体的に取りにいくのか。その分岐は、すでに始まっています。
(参考)
経済産業省「排出量取引制度」:https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html
GXリーグホームページ:https://gx-league.go.jp/
金融庁「サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ」:https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability-kaiji.html
北九州GXビジネススクール:https://ktq-gx.com/business-school/