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- 2025.12.9
ブラジルでの気候変動COP30の成果
2025年11月10日~22日にかけて、ブラジル北部のアマゾン河口に位置するパラー州ベレンで、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第30回締約国会議(COP30)が開催されました。COP(コップ)は「Conference of Parties」の略で、同条約に署名した締約国「Parties」が集まり、さらなるルールを交渉したり、これまで合意したことの実施状況を確認したりする国際会議です。パリ協定の締約国会議(CMA)もCOPと同時並行に開催されました。今回は、30回目のCOP、そして2015年のCOP21でパリ協定(条約より具体的な取り決め)が採択されてから10年の節目の年にあたります。この間、気候変動は想定よりも早く進行し、大排出量国に新興国が加わり、戦争や貿易といった課題にも直面しています。
グリーン・トランスメーション「GX」は、カーボンニュートラル・温室効果ガスの削減といった「緩和分野」に主眼が置かれていますが、COP30では、森林や農業といった「適応分野」にスポットライトがあたりました。また、締約国政府だけでなく、民間企業やローカルコミュニティ・先住民族といった幅広いステークホルダーによるアクションが呼びかけられました。COP30で決定または発足した3つの事項にいて、紹介します。
1.「Global Goal on Adaptation(GGA)」 適応分野の世界共通目標
緩和については、地球の平均気温の上昇を工業化前と比べて、1.5~2℃以内に抑えるという世界共通の数値目標があります。また、原因となっている温室効果ガスについても、〇〇トンや〇〇PPMという共通の単位で測ることができます。一方で、適応分野は分野が多岐にわたり、共通の物差しで比較することが難しい性質がありましたが、2年間にわたる作業を経て、下記の7つの分野別と4つのサイクル別の計59個の「ベレン適応指標」が決定されました。
(1) 分野別
1)水(下記点を含む9の指標) 水ストレスのレベル、気候耐性のある水・衛生インフラの割合など、水のレジリエンスと供給・衛生の質を測定するアウトカム指標に焦点。温暖化シナリオも考慮された。
2)食料・食糧(5つの指標) 損失の測定から適応策の成果を含む収量の水準や公平な栄養アクセスに関する指標。
3)健康(8つの指標) 適応策の成果を含めた死亡率・罹患率の統合評価が導入され、保健システムの継続性と実務者の能力構築などに関する指標。
4)生態系(6つの指標) 生態系を活用した適応(EbA)および自然を活用した解決策(NbS)の実施による適応能力のレベル、適応策実施の結果、生態系のレジリエンスと健全性などに関する指標。
5)インフラ(2つの指標) 居住区の計画と安全性や、安全な場所への移転について測定する指標。
6)貧困・生計(3つの指標) 適応策の貧困削減効果や、社会保護の利用可能性に関する指標。
7)文化遺産(5つの指標) 伝統的知識に基づく適応策の実施や緊急時対応計画の有無など、文化遺産のレジリエンスと保護措置を測定、温暖化シナリオを考慮した評価などに関する指標。
(2) 適応サイクル別
1)影響評価(7つの指標) 早期警戒システム、リスク情報の活用度と結果、温暖化シナリオに基づくリスク評価に関する指標。
2)計画策定(3つの指標) 国家適応計画(NAP)、ジェンダー考慮、伝統的知識の活用度など、計画文書の存在と質を測る指標。
3)実施(6つの指標) 計画の実施度、損失回避による経済的純貯蓄、死亡・行方不明者数など、適応行動の進捗と成果を測る指標。
4)モニタリング・評価・学習(MEL)(5つの指標) システムの構築・運用能力と適応努力への学習・フィードバックの程度を測る指標。
2.「1.3兆ドルロードマップ」 全てのアクターによる気候資金動員の呼びかけ
昨年(2024年)アゼルバイジャン・バクーで開催されたCOP29では、2035年までの新しい世界の資金目標「新規合同数値(NCQG: New Collective Quantified Goal on Climate Finance)」が決定されました。パリ協定は、途上国・先進国の隔たりなく、自国の緩和目標(NDC)や適応計画(NAP)を策定・実施することになっていますが、途上国には、実施する3つの手段(技術、資金、能力開発)を支援することも約束しています。この途上国への資金支援につぃて、2035年まで達成する2つの数値目標が設定されました:①公的資金を中心に年間3000億米ドル、②民間資金も含め全ての資金を含め、年間1.3兆米ドル。この②についてのロードマップがCOP29とCOP30議長により作成され、COP30でラウンチされました。
ロードマップでは、5つの行動ポイントと短期的なステップが示されました。民間も含めた「オールアクター」による気候資金フローの拡大に、世界は走り出しました。



3.「トロピカル・フォーレスト・フォエバー・基金」 ブラジル政府のイニシアティブ
今回のCOPでは、交渉以外にブラジル政府によるイニシアティブが多かったことも特徴です。世界最大の熱帯林・アマゾンを有するブラジルが、「トロピカル・フォーレスト・フォエバー・ファシリティ/基金」(TFFF: Tropical Forests Forever Facility/Fund)を立ち上げました。
衛星データから熱帯林の状況をモニタリングし、森林面積が維持・回復されたことが承認されれば、面積に対する年間の固定額(1ヘクタールあたり4ドル)を熱鍛林保有国が受益する仕組みです。また、支払いの20%は先住民族・ローカルコミュニティが裨益することとしています。COP30のラウンチイベントでは、ブラジルやインドネシアなど新興国も含め67億ドルがプレッジ(公約)されました。日本政府は、イニシアティブへの承認には加わりました。公的資金の4倍の民間資金を得る目標を掲げており、今後どの位にスケールアップされるかが注目されます。




【参考】 IGESのCOP30特設ページ