2025年は1月に米国ロスアンゼルスで発生した大火災から始まり、2月には岩手県大船渡市において3,000ヘクタール以上(東京ドーム約700個相当)を消失する国内最大規模の林野火災が日本を襲いました。3月には、岡山市、今治市、宮崎市に相次いで林野火災が発生しました。記録的な少雨による乾燥や強風などが悪条件となり、いったん広がった林野火災は鎮火までに数週間かかり、人命や自然の損失だけでなく、経済的にも甚大な損害をもたらしています。

森林は「炭素の貯蔵庫」とも呼ばれ、地球温暖化の原因である大気中の二酸化炭素(CO2)を樹木や土壌に貯留してくれています。世界の陸地の約3分の1にあたる森林は、年間約36億トンのCO2を吸収しています(FAO 2025)。特に、大きな吸収源となっているのが泥炭地(Peat)です。湿地帯などで枯死した植物が分解されず、炭素を含む有機物が残る土壌で、日本では北海道の釧路湿原などがあります。泥炭地は地球の陸地のほんの3%にすぎませんが、通常の土壌の10倍もの炭素を貯蔵しているといわれています(ラムサールネットワーク日本)。

泥炭地の多くは北半球の高緯度地域にありますが、世界の泥炭地の約10%は熱帯地域にあります。インドネシアのカリマンタン島やスマトラ島、アフリカのコンゴ盆地などに熱帯泥炭地が集中しています。インドネシアにおいては乾燥気候をもたらすエルニーニョ現象が起こる年に、大規模な森林火災が発生する傾向があります。強力なエルニーニョであった2015年は、インドネシアでの森林泥炭地火災から15億トン規模の温室効果ガスが放出されたとされます。日本の年間の排出量以上に相当する量がわすか2か月程度で排出されたことになります。その後のエルニーニョ2019年、2023年にも顕著な森林火災が発生しています。劣質な石炭燃料ともいわれる泥炭の課題は、火種が地中深くにくすぶり、完全な鎮火が難しいことです。

中央カリマンタン州での火災現場(2023.8)IGES撮影

北九州市に本社を置くシャボン玉石けん株式会社は、北九州市立大学などと共同して、環境に優しく、水の使用量を最小限に抑え、さらには浸透性の高い消火剤を開発しました。きっかけは、1995年の阪神淡路大震災で消火水栓などが現場では破壊され、水が不足した教訓から、少量の水でも消火効率が良い消火剤ができないかと研究開発を始めた背景があります。7年間かけた開発が成功し、国際会議での発表がきっかけで、インドネシアでの森林火災に活用できないかという探求が始まりました。

国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業(2013~2015年)等から始まり、直近では、JICAのSDGsビジネス支援事業(2023~2025年)として、インドネシアの中央カリマンタン州パランカラヤ大学をカウンターパートとした普及・実証事業が行われました。シャボン玉石けん、北九州市消防局、北九州市立大学、地球環境戦略研究機関(IGES)とそれぞれの強みを生かした産官学の連携により、カリマンタンでの泥炭土壌に対しても効果的であることが実証され、現地のステークホルダー(大学、消防隊、自治体、NGO、民間企業など)とのネットワーキングを構築し、生の声をヒアリングしました。

消化剤の概要 (←このリンクからダウンロード)
インドネシア関係者の声を反映した消火剤マニュアル

インドネシアでの消火剤実演デモのビデオ

パランカラヤ大学内の泥炭地で消火剤を用いた実演(2024.8)
実演後のセミナー(2024.8)

2026年は、経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業として、対象をカリマンタンに加え、インドネシアのもう一つの泥炭スポットであるスマトラ島リアウ州とジャンビ州にも拡大し、普及活動を継続しています。スマトラ島は民間のプランテーション農園が多い地域で、民間ユーザーも対象に可能性を探っています。

日本の優れた技術を国内のみならず、グローバルサウス(途上国)のグリーントランスフォーメーション(GX)、ひいては世界のGXに貢献できたらすばらしいですね!