みなさんは「脱炭素社会実現のための都市間連携事業」(以下、都市間連携事業)をご存じでしょうか。

日本政府が主導し、国際的な脱炭素化/GXを着実に前進させるための重要な政策ツールとして、いま改めてこの取組が注目されています。日本と海外の都市や企業が連携し、制度づくりや技術導入、人材育成を通じて地域脱炭素の実装を後押ししていく――それが都市間連携事業です。

その最新の動向が共有されたのが、2月5日から6日に松山市で開催された「脱炭素社会実現のための都市間連携セミナー2026」です。環境省が主催し、愛媛県および地球環境戦略研究機関(IGES)が共催する形で実施され、国内外から100名を超える自治体関係者、企業、研究者が集いました。私も事務局メンバーとして参加しました。

愛媛県松山市での公開セミナーの様子
出所:IGES北九州アーバンセンターFacebook

公開セミナーでの成果報告に加え、関係者同士による相互学習セッションや企業視察も実施されました。各都市の案件概要や直面する課題が率直に共有され、実装に向けた具体的な示唆や気づきが活発に交わされました。こうした対話を通じて都市間の相互理解がさらに深まり、地域脱炭素の取組を一層前進させていく機運が醸成されました。

国際的な枠組みの先行きが不透明な時代であっても、都市レベルの実践は止まりません。むしろ国家間交渉が停滞する局面だからこそ、都市どうしの柔軟で実務的な連携がこれまで以上に重要になります。今回のセミナーは、その現実を改めて実感するとともに、都市間連携が持つ可能性を再確認する場となりました。

公開セミナーの動画および資料は、こちらからご覧いただけます。
https://www.iges.or.jp/jp/events/20260205

 

実装まで見据えた制度設計型の連携

この都市間連携事業は、環境省が2013年度から継続して実施している取組です。日本と海外の都市がパートナーシップを築き、日本企業の優れた低炭素・脱炭素技術やノウハウを活用しながら、案件形成調査や政策支援、人材育成を進めています。今年度は25件の案件が展開されています。

最終的には、二国間クレジット制度(JCM)の案件創出や、技術導入によるCO₂削減につなげることが期待されています。しかし、成果はそれだけにとどまりません。民間主導の事業化へ発展するケースや、他の制度への展開につながる例もあります。また、CO₂削減効果が限定的であっても、現地の環境改善や都市機能の向上に寄与する案件形成は重要な成果です。さらに、政策支援や制度設計支援、人材育成といった基盤づくりも、この事業が果たす大きな役割の一つです。

都市間連携事業の概要図
出所:脱炭素社会実現のための都市間連携事業サイト

特徴的なのは、制度的な枠組みを国が設計しつつ、実際の内容は自治体や企業が現地ニーズに応じて柔軟に企画・実践できる点にあります。単なる視察や情報交換にとどまらず、制度設計支援、技術移転に向けた実現可能性調査、人材育成などを組み合わせながら、パートナー都市の脱炭素化を実装レベルで後押ししています。

まさに、多層的な連携(マルチレベル・ガバナンス)と多様な主体の協働(マルチステークホルダー・アプローチ)を掛け合わせた、みんなで進める
GXの実践例と言えるでしょう。

 

北九州モデルから広がった実践知

この事業の源流には、北九州市が長年にわたり積み重ねてきた国際環境協力の歩みがあります。

公害を克服した経験を持つ北九州市は、その教訓を世界と共有してきました。
2004年に策定された「グランド・デザイン」には、「環境都市モデルを発信し、世界に環を拡げます」と明記されており、当時から国際社会における自らの役割を強く意識していたことがうかがえます。

カンボジア・プノンペン都の水道事業の改善や、インドネシア・スラバヤ市における廃棄物管理の改善への貢献など、北九州市は数多くの実績を重ねてきました。その特徴は、単なる技術導入にとどまらず、制度づくりや人材育成を含む伴走型の支援を続けてきた点にあります。

北九州の強みは、技術そのものだけでなく、「仕組み」に目を向けてきたことにあります。環境対策を産業政策や都市計画、さらには企業競争力の向上と結びつけながら取り組んできました。こうした発想と実践のアプローチは、現在の都市間連携事業にも確実に受け継がれています。

 

GXは局所的には成立しない

GXの本質は、単なる脱炭素化ではありません。社会経済システム全体の構造転換です。エネルギー、産業、交通、資源循環、金融、人材育成――これらが同時に変化していく必要があります。

再生可能エネルギーの導入には制度設計や金融スキームが不可欠です。廃棄物発電にはごみの収集体制や市民理解が求められます。GXは“点”ではなく、“面”で進める取組なのです。

だからこそ都市間連携が重要になります。他都市の成功事例は加速剤となり、失敗事例は貴重な教訓となります。横のネットワークは挑戦の心理的ハードルを下げ、実装のスピードを高めます。GXは競争であると同時に、協働でもあります。

 

都市間連携事業を活用した実装事例

北九州市は2020年以降、パラオ・コロール州とともに都市間連携事業に参画しています。

先日、その現場を訪問する機会がありました。

現地ではさまざまな調査や実証活動が進められています。その一つが、アミタホールディングスによる「島まるごと循環計画」の実践です。地域の環境・経済・社会を同時に向上させる仕組みの実装に向けて、現地のステークホルダーと協働しながら取り組んでいる様子が、こちらのコラムからもうかがえます。

廃瓶からつくられたガラス工芸品「ベラウ・エコ・グラス」は、思わず手に取りたくなるデザインと高い完成度を備えています。観光土産にとどまらず、地域の誇りとなり得る製品です。独自の生産品が限られる中で、「地域に持ち込まれた資源を活かし、地域で生み出し、地域で循環させる」ことを体現する象徴的な取組として、深い感銘を受けました。

パラオの青い海を連想させるベラウ・エコ・グラスの製品
出所:筆者撮影

 

ネクストホライズンへ

都市間の学び合いは以前からありました。しかし、共に計画し、共に実行し、実装までを見据えた制度として確立された点に、この事業の独自性があります。

国際協調の形が変わっても、都市の挑戦は止まりません。都市こそが変革の最前線です。
みんなで進めるGX。その具体的な姿が都市間連携であり、それは次なる地平――ネクストホライズンへとつながっています。

GXは局所的な成功だけでは足りません。連鎖し、波及し、広がっていくことが重要です。都市どうしが学び合い、支え合い、共に実装する。その積み重ねが、持続可能な未来への確かな道筋となります。