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- 2023.12.15
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GX実現に向けた150兆円の巨額投資が動きだした #3化石燃料使用からの構造転換
化石燃料消費の現状
日本のCO2排出量は2020年時点で発電(約41%)、製造業(約22%)、運輸業(約17%)で全体の約80%を占めており、この分野への手当がカーボンニュートラル実現には必須です。
発電に関しては、再生可能エネルギーへの転換により、CO2排出量を抑える計画です。
製造業、運輸業からのCO2の直接的な排出は化石燃料使用によるものが大多数で、電化をはじめとした構造転換を実施することが排出量を抑えるための鍵になります。今回は「非化石化」について見ていきます。
製造業
CO2排出量全体の約22%を占める製造業ですが、その中をさらに細かく見て行くと、鉄鋼業(約48%)、化学産業(約23%)、窯業・土石製品産業(約10%)、パルプ・紙・紙加工業(約7%)となっています。
それぞれについてさらに詳しく見ていきます。
鉄鋼業
製造業の約半数の排出量を占める鉄鋼業では、高炉にて鉄鉱石から酸素を除去(還元)するために、現在は石炭(コークス)を使用しており、この工程でCO2を大量に排出してしまいます。この還元剤を水素で代替することで、還元の工程での排出物はH2Oのみとなる「水素還元製鉄」の技術開発が進められています。
また、鉄鉱石から精製するのではなく、鉄スクラップを大型電炉でリサイクルすることにより還元が不要となり、CO2を排出させない取組みなども進められています。製造工程でCO2を排出しないグリーンスチールの供給を2030年までに1000万tにする目標に向け、約3兆円の投資が見込まれています。
化学産業
2番目に排出量が多い化学産業では、製造過程のエネルギーでの化石燃料使用に加え、化石燃料由来の原料利用によるCO2排出も存在します。
下の図の様に①製造工程での熱源を化石燃料からアンモニア燃焼等に転換する「熱源転換」、②化石燃料由来の原料をバイオマス由来の原料や回収したCO2へと転換する「原料転換」、③リサイクルを推し進める「原料循環」などにより、CO2排出を抑える取組みが進められています。2030年にケミカルリサイクル処理量150万t、バイオマスプラスチック200万tを目標に、約3兆円の投資が見込まれています。
窯業・土石製品
3番目にCO2排出量の多い窯業・土石製品では主にセメント産業への投資が見込まれています。
セメントは石灰石などの原料を高温で加熱し製造されますが、この工程で石灰石からCO2が排出されます。石灰石由来のCO2を回収し、その回収したCO2から炭酸塩を作りセメント原料にする、また、廃コンクリートなどの廃材をリサイクルし原料とする取組みが行われており、2030年までに「カーボンリサイクルセメント」供給量200万tの実現へ、約1兆円の投資が見込まれています。
パルプ・紙・紙加工品
パルプ・紙・紙加工品で排出するCO2の大半は、製造工程での熱エネルギー起源のものになっています。まずは再生可能エネルギー活用などの燃料転換を進めます。また、紙・パルプは木材を原料にしており、この木材からバイオマスプラスチックなどを製造する「バイオリファイナリー」による化石由来樹脂等の使用低減といった構造転換への研究・開発も進められており、これら分野でも約1兆円の投資が見込まれています。
運輸業
運輸業はCO2排出量の全体の約17%を占めていますが、その中の9割以上は自動車が排出しています。運輸業のCO2排出量を抑えるには、自動車からの排出量を抑える事が必須になります。
自動車
自動車のCO2排出量削減対応の鍵は、ガソリン車から電気自動車(EV車)や燃料電池車(FCV車)への切り替えです。
自動車は燃料によって分類され、従来のガソリンを燃やして走る「ガソリン車」、軽油を燃やして走る「ディーゼル車」、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせて走る「ハイブリッド車(HEV)」、ハイブリッド車の中でも直接充電が可能な「プラグインハイブリッド車(PHEV)」、純粋に電気のみで走る「電動車(BEV)」、水素などから電気を発生させてモーターを回して走る「燃料電池車(FCV)」などがあり、厳密には「PHEV」と「BEV」がEV車として分類されます。
日本国内の乗用車の新車販売台数の割合でみると、2022年にHEV車がガソリン・ディーゼル車を抜いて初めて売り上げシェアNo.1になりました。ですが、厳密な分類でのEV車であるPHEVとBEVを合わせたシェアはわずか3.2%に留まっています。
2035年に国内の乗用車の新車販売で電動車100%を目標に掲げており、充電・充填インフラの整備、充電時間の長さや1回の充電での走行距離、価格、メンテナンスなど、実現に向けた課題がまだまだあります。
世界の電気自動車マーケットではアメリカ、中国、ドイツが先行おり、国内メーカーは後塵を拝する形になっています。国内経済の成長のためには、ここからの挽回が期待されます。
バスやトラックなどの商用車は乗用車に比べ、さらにEV化への対応が遅れています。
EVバスの導入は2022年時点で約150台程度に留まっています。全国で約5万6千台の路線バスがあることから見れば、普及率はごくごくわずかです。日本バス協会は2030年にEVバスを全国で1万台に増やすことを目標としています。
現在のEVバスの多くが中国のBYD社製で、国内メーカーの進出はまだまだこれからの状況です。そんな中、北九州市に本社をおくEVモーターズジャパン社は、国内初となる商用EVバスの組み立て工場を2023年秋に稼働させる予定です。また、従来のディーゼルバスのエンジンをモーターやバッテリーに交換して電気バスとして走らせる「レトロフィット電気バス」の取り組みも西鉄バスなどで進められています。
トラックについては、2022年時点で8t以下のEVトラックが636台、ハイブリッド車を合わせても12,068台で全体の約2.7%の普及に留まっています。ヤマト運輸や佐川急便などで、小型EVトラックの導入が始まっており、全日本トラック協会は2030年までにEVトラックの保有台数を10%にする目標を掲げています。大型トラックについては世界的にみてもまだまだこれからの状況です。大型トラックは長距離輸送が多く、十分な航続距離が求められるため、水素を燃料とした燃料電池トラック(FC大型トラック)が注目されており、国内での実証実験が始まっています。
自動車産業へは今後10年間で約34兆円の投資が計画されています。その大半が電動車に関するものになっており、今後電動車へ対するマーケットが大きく動くことは確実です。インフラ普及や価格低下に伴い電動車の普及が進めば、従来のガソリン車の車体や古くなった電動車のバッテリー等の廃棄増が懸念されます。リサイクル技術等、先々を見越して備えておくことが肝要です。
航空機
航空機産業では「空飛ぶクルマ」のような次世代航空機の実現へ向けた技術開発へ約4兆円の投資が見込まれています。2025年大阪万博での実証に向けて、技術開発、環境整備などが急ピッチで進められています。また、2020年代後半には、まずはエアタクシーとしての商用利用が拡大すると予想されています。基本的に電動なためCO2を排出しない、ヘリコプターより騒音が少ない、運航コストが安い、渋滞の影響を受けないなどメリットが多くあり、運輸業のゲームチェンジャーになるのではないかと期待されています。日本でも愛知県に本社を置くSkyDrive社が機体を開発し、すでに3人乗り機体である「SKYDRIVE」の受注を開始しています。
また、次世代の航空燃料と呼ばれる「SAF」への投資が約1兆円計画されています。「SAF」は「Sustainable Aviation Fuel」の略で「持続可能な航空燃料」という意味です。主に植物や廃油などを原料に精製されます。環境に優しい航空燃料として世界中で研究開発が進められています。政府は2030年に国内の航空燃料の1割を「SAF」にすることを義務付ける方針を明らかにしています。研究開発にあわせて原料となる廃油を効率的に収集するサプライチェーンの構築などの整備も必要です。
船舶
海運では運行時に温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション船」の導入などへ約3兆円の投資が予定されています。ゼロエミッション船は水素燃料船、アンモニア燃料船、船上CO2回収システム搭載船、低速LNG+風力推進船の4タイプについて、現在技術開発が進められており、2020年代後半から順次運航開始を目指しています。
その他
鉄道分野では鉄道アセットを使用した再生可能エネルギー導入促進、燃料電池鉄道車両の導入などが検討されています。他にも鉄道や船舶へのモーダルシフト、ドローンなどによるグリーン物流の推進などの取り組みも検討されています。
「非化石化」のキーワードの中でやはり一番大きいのは「電化」です。電化がさらに進めば、電子部品への需要が一層高まることが予想されますし、第2回で見てきた蓄電池への技術革新はもちろん、消費電力の少ない革新的なモーターなどの技術開発への期待が高まります。
第3回目の今回は「非化石化」について見てきました。次回は「省エネ」について見ていきます。
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