気候変動による影響の一つとして、海面水位の上昇が懸念されます。
今回は海面水位の上昇の状況、背景、影響などについて見ていきたいと思います。

海面水位の状況

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書によると「世界平均海面水位は、1901~2018年の間に0.20[0.15~0.25]m上昇した。その平均上昇率は、1901~1971 年の間は 1.3[0.6~2.1]mm/年であったが、1971~2006 年の間は 1.9[0.8~2.9]mm/年に増加し、2006~2018 年の間は3.7[3.2~4.2]mm/年に更に増加した(確信度が高い)。」と報告されています。
世界の海面水位は確実に上昇しており、その上昇率は年々高くなっている、特に2006年以降はこれまでの倍のスピードで進んでいる、ということです。

では、日本沿岸はどういう状況でしょう。
気象庁によると「2023年の日本沿岸の海面水位は、平年値(1991~2020年平均)と比べて72mm高く、統計を開始した1906年以降で最も高い値」と報告されています。
上昇率については「2004~2023年の間に1年あたり3.5[2.5~4.5]mm上昇」とのことで、世界平均とほぼ同等となっています。
下記グラフで見ると、過去にも20年程度の周期での変化は見られますが、1980年代中盤からは確実な上昇傾向が見て取れます。

出典:気象庁「日本沿岸の海面水位の長期変化傾向」
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/a_1/sl_trend/sl_trend.html

海面水位上昇の原因

それでは、なぜ海面水位の上昇は発生しているのでしょう。
こちらもまた、IPCC第6次評価報告書によると、下記の要因が挙げられています。

・海洋の熱膨張
・氷河の変化
・グリーンランドの氷床と周囲の氷河の変化
・南極の氷床と周囲の氷河の変化
・陸域の貯水量の変化

いずれも世界の平均気温上昇による影響です。ひとつずつ見ていきます。

「海洋の熱膨張」は、海の水が暖められることで体積が膨張することによる影響です。
20℃の海水は1℃上昇すると、体積が約0.025%膨張するとされています。
1℃で0.025%だと小さいと思われがちですが、実は1970年代以降の海面上昇の要因の約50%が、この海洋の熱膨張によるものだとされています。

「氷床と氷河の変化」は、陸地に降り積もった雪が固まった氷河などが、気温の上昇により溶け出し、海に注がれることによる影響です。
ちなみに氷床は大陸全体を覆うような大陸氷河のことで、南極とグリーンランドに存在します。
氷河は世界中に存在しており、南極、グリーンランドを最大級に、陸地の約11%を覆っています。
氷河は膨大な量の氷を蓄えており、仮にグリーンランドの氷が全て溶けた場合には約6メートル、南極の氷が全て溶けた場合には約65メートル、海面が上昇すると言われています。
実は日本にも氷河があり、富山や長野の立山連峰や北アルプスに確認されています。

「陸域の貯水量の変化」は、地下水採取、灌漑、貯水池への貯水、湿地の排水、森林伐採などによる影響です。
多くの国で貯水の重要性はますます高まりつつある一方、1971-2020年までの50年で世界の水資源は、世界人口が1年間で使用する水とほぼ同等の、27兆立方メートル減少したと報告されています。
また、世界の森林面積は2010年から2020年の間に年平均で470万ヘクタール減少しています。
これは1分毎に東京ドーム約1.9個分の森林が失われている計算になり、また約8年で日本の国土まるまる1個分の森林が失われている計算になります。
森林の貯水機能としての観点と併せて、CO2の吸収源としての観点からも非常に深刻な状況です。

海面水位の上昇による影響

海面水位の上昇は、海抜の低い土地への浸水、高波・高潮などによる沿岸災害の激化、沿岸や汽水域などの生態系への影響など、様々な影響を引き起こします。

南太平洋の国ツバルは、国土のほとんどが平均海抜1.5メートル程度、最高点でも4.6メートル程度で、陸地が水没して国自体がなくなってしまう危険にさらされており、やむを得ずニュージーランドなどへの移住などを余儀なくされる状況になっています。
このような環境難民の発生は、国土の4分の1が海抜0メートル以下のオランダなど、他の地域でも懸念されいます。
水上都市で知られるイタリアのベネチアも同様で、水没や高潮などの危機に備え「モーゼ計画」と呼ばれる巨大なプロジェクトを立ち上げ、アドリア海から通じる3カ所の水路に4つの巨大な防潮堰を設置しています。しかし、このモーゼ計画により潮の流れが変わってしまい、生態系への深刻な影響などの別の環境問題への懸念が発生しています。

日本における影響はどうでしょう。
日本でもやはり海抜の低い地域への影響が懸念されます。
海面が30センチ上昇すると日本全国の半分の砂浜が、1メートル上昇すると9割以上の砂浜が失われると予測されています。
また、海抜の低い、特に東京・大阪・愛知などの大都市圏に大きな影響があると予測されています。
生態系や農業などへの影響も懸念されます。

まとめ

海面水位上昇の大きな原因は、やはり気候変動による世界の平均気温の上昇です。
気候変動を食い止めるために私たちに出来ることは、今のところ温室効果ガス排出量の削減くらいしかありません。
極端なことではなくても、日常的に出来ることから、一人一人が考え、行動を起こしていく必要があります。