北九州市を中心に北部九州エリアで廃棄物処理・資源物リサイクルを中心に事業展開する株式会社西原商事ホールディングス。同社のGXへの取り組みと将来の目標、展望について同社取締役の成田詩歩さん、企画部の長濱義仁さんにお話をうかがいました。

株式会社西原商事ホールディングス社屋外観(提供:株式会社西原商事ホールディングス)

――貴社がGXに取り組むきっかけをお聞かせください。

廃棄物処理業界でCO2削減に取り組むことで、新しい施策に挑戦する“余白”を作りたいと考えたことがきっかけです。GXの推進にはDXが不可欠であり、デジタル技術を活用した事業変革と脱炭素化を両立させることを目指しています。ただ、廃棄物業界ですぐに成果を出すのは容易ではないため、まずは自社の業務効率化と生産性向上に注力し、イノベーションに取り組む土壌を作ることが肝要だと認識しています。

――具体的にどのような取り組みを行っていますか?

当社では、GXを推進するためにさまざまな取り組みを行っています。収集運搬部門では、2008年から従来の紙の伝票を自社開発のシステム『bee-net』に移行し、情報の一元化によって、日常的に業務見直しを実施できる体制を構築しています。これにより、業務効率化とコスト最適化、環境負荷低減に大きな効果を上げています。

また、2022年から収集運搬ドライバー向けのアプリ『Beetle Assist』を開発し、日報や回収実績のデジタル化を進めています。将来的には、CO2排出量の把握やAIを活用したルートの最適化や異常検知なども視野に入れており、DXの推進がGXにも寄与すると考えています。

もう一つ注力しているのが、AIロボットの開発です。深刻化する人手不足への対策として、ロボットと人が協働することで作業負荷を下げつつ生産性向上を図ることを目的としています。処理工程においてもAIやロボットを活用した省人化と効率化を進め、従業員の負担軽減と施設全体の生産性向上に向けて歩みを進めています。

おなじみ「BEETLE」ロゴのトラックが回収した廃棄物を集積します

――再生可能エネルギーの活用についてはいかがでしょうか?

再生可能エネルギーの活用も積極的に行っており、当社グループの全工場で再エネ100%電力を導入しています。そのうち、北九州の工場のひとつでは、「再エネ100%北九州モデル」のステップ2(太陽光パネル+蓄電池第三者所有モデル)を採用し、先進的な取り組みを進めています。

北九州市では、家庭や事業所から出る廃棄物を燃やす焼却工場で発電した電気を、北九州パワー社が再生エネルギー100%電力として提供しています。この再エネ100%電力の供給先を、民間企業にも拡大できないかと当社から提案したところ、環境面とコスト面に配慮した形で実現に至りました。再エネ100%電力の導入も、「再エネ 100%北九州モデル」のステップ2も、市内では当社が最も早く採用しています。

当社としては、GXを意識して取り組みを始めたというよりは、新しいモデルやアイデアが出てきた際に、自社にとってのメリットを見極めながら、GXを推進しています。

――GXへの取り組みを始めたのはいつ頃からですか?

2008年から2010年頃に、廃棄物の情報を一元管理するシステムの提供を開始したのがGXの第一歩でした。その後、2020年頃から再生可能エネルギーの導入を本格的に進め、GXをより目に見える形で推進してきました。

―― 社内でGXの理解を広げるための取り組みをお聞かせください。

当社の規模は全社で250名ほどですが、現状GXについて自分の言葉で語れる社員は3名程度と限られています。この3名が中心となり、全社にGXの理解を広げる活動を行っていますが、一人ひとりに浸透させるのは容易ではありません。

当社のような中小企業では、トップダウンの号令だけでは社員の真の理解は得られません。GXを自分ごととして捉え、腹落ちさせる工夫が必要不可欠です。

例えば、営業担当者がお客様とのコミュニケーションの中でGXを意識するよう促しています。これは社内の意識改革だけでなく、取引先へのGXの波及効果も期待できる取り組みです。

大切なのは、単に知識を身につけるだけでなく、日々の業務の中でGXを実践していくことだと考えています。

―― GXに取り組むことで、貴社のビジネスにどのようなメリットがあるのでしょうか?

廃棄物処理業は、あらゆる業種・業態との接点を持つことができる特性があります。この特性を活かし、業界内外の連携を深めることで、GXに関する知見の共有と業界全体の底上げが期待できます。
今回、製造業を中心としたコンソーシアムに参加することで、他業界のGXの取り組みから学ぶ機会を得ています。同時に、自社の事例を共有することで、他社からの反応を通じて新たな気づきを得ることができます。業種の垣根を越えた学びの場に参加できることは、GXを推進する上で非常に重要だと考えています。

GXは、個社の取り組みだけでは限界があります。業界の垣根を越えた連携と学び合いこそが、GXを加速させる原動力となるでしょう。当社のコンソーシアムへの参加は、そうした連携の第一歩となる取り組みであるといえます。

――貴社のGXへの取り組みが、顧客や社会にどのような影響を与えていると感じますか?

当社は、お客様の廃棄物を適正に処理をおこなったり、最適なリサイクル方法をご提供したりすることで、CO2削減に直接貢献できていると考えています。『bee-net』は2025年4月リリースに向けて大規模リニューアルを図っています。お客様に廃棄物由来のCO2排出量を可視化し、レポーティングすることで、お客様自身のGX推進をサポートする機能も追加されます。

――GXにおいてはどのような部分で他社との連携が可能ですか?

第一に、物流の分野では、当社のアプリケーションシステムを活用することで、企業間で廃棄物収集の共有化を進められます。物を作ったり売ったりする部分ではどんどん競争をすればよいと思うのですが、ゴミを捨てることで競争する必要はないと思うんです。例えば、スーパーマーケットによって異なる廃棄物処理業者を、共有化することを進めています。これを他の業種にも広めていくことで、各社は本業に集中することができます。当社はシステムを通じて、そうした非競争領域での連携をサポートしていきます。

第二に、当社が北九州・福岡で運営する9つの工場で培ったノウハウを活かし、他社の再エネ導入を支援することができます。例えば、再エネ活用によるCO2削減効果を定量的に示すことで、他社のGX推進をバックアップします。当社のアプリシステムを通じて、全国の企業に同じような価値を提供し、パートナーとして貢献していきたいと考えています。

第三に、製造業のお客様との協働です。製造工程から排出されるプラスチックなどの廃棄物について、リサイクルの方法を最適化することで、環境負荷の大幅な削減が可能です。お客様が本業に集中して頂く中で、我々がお客様に代わって、資源循環の改善をサポートすることで、お客様の企業価値向上に貢献できると考えています。

――他社から気軽に相談を受けられる体制を整えているそうですね。

はい。企業規模を問わず気軽に相談いただけると嬉しいです。

大企業に限らず、小規模な事業所や中小企業からのご相談も大歓迎です。GXは社会全体で取り組むべき課題であり、一社だけで解決できるものではありません。規模の大小や取組の大小に関わらず、GXに前向きに取り組む企業からのご相談をお待ちしています。お気軽にお問い合わせください。

インタビューを行った株式会社ビートルエンジニアリング若松第二工場の社内は近未来をイメージした装飾が施されていました

――短期的なGXの目標について教えてください。

短期的な目標としては、北九州市を中心とした一般廃棄物や産業廃棄物の回収業務について、現在のスキームを徹底的にデータ化し、分析・改善を続けていきたいと考えています。新規案件が発生した際には、最適な回収ルートを提案し、CO2削減効果を明示することで、お客様のGX推進に貢献します。そのためにも、GXを提案できる営業人材の育成に注力します。

――長期的な展望として、業界全体のGX推進についてどのようにお考えですか?

長期的には、当社のシステムやアプリを全国の同業者に広め、業界全体でGXの理解を深めていきたいと考えています。

本来、GXというと、生物多様性など幅広いものが対象となりますが、着目しやすいのは環境やゴミなんです。本来廃棄物処理を生業とする私たち以外の企業が、GXの取り組みをした方が受けがいいからと、表面的にGXに取り組み始めているのです。

これは社会にとって、逆に成長を遅延させてしまう危機感の強い問題だと考えています。私たちは廃棄物・資源循環においてはプロフェッショナルであり、業界としても社会にその存在価値を示していかなければなりません。そのためには、自社だけでなく、全国の同業者とも手を携え、共通の課題意識を持つことが肝要です。当社のシステムを業界標準にまで高め、廃棄物処理業界全体の底上げを図ることが、社会全体のCO2削減とサーキュラーエコノミー実現への近道だと信じています。

当社の営業エリアは北九州市を中心に北部九州エリアですが、『bee-net』を活用し全国の企業のサポートを積極的に推進していきたいと考えています。そのためにも、まずは地道に本業で成果を上げつつ、当社がGXのモデルケースとなるよう、自社の体制を整えていきます。

【まとめ】

西原商事の取り組みは、GXが特別なことではなく、本業の延長線上にあるものであるということを示しています。デジタル技術を駆使した業務効率化、再生可能エネルギーの導入、そして何より、社員一人ひとりのGXに対する当事者意識の醸成。その地道な努力の積み重ねこそが、業界全体のGXを加速させる原動力となります。