地域に根差した企業としてSDGsに積極的に取り組んできた大英産業株式会社。GXへの本格的な舵取りを進める同社の現状と課題、目指す姿について、執行役員の馬場充氏にインタビューしました。

――貴社のGXへの取り組みの現状について教えてください。

「弊社では、再生可能エネルギーの導入など、脱炭素に向けた取り組みを始めています。これらの取り組みを戦略的な目標に直結させ、本格的なGXを推進していくことが今後の課題です。現在、脱炭素に向けた具体的な数値目標の設定に取り組んでおり、近い将来、明確なビジョンのもとGXへ舵を切っていく計画です。弊社では10年間の経営計画を策定しており、SDGsやCO2排出量の削減目標も掲げています 。これらの目標を達成するための具体的なアクションプランを策定し、実行に移すことが次のステップです。GXへの取り組みは、社会的要請であり、私たちは積極的に応えていく必要があります。社内の意識改革を進め、できることから着実に実行に移すことで、GXを推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいと考えています」

――SDGsの観点では、どのような活動に力を入れているのでしょうか?

「2019年から、住宅の建築で出る端材を活用した『出張こども大工』という取り組みを行っています。子どもたちに木に触れる機会を提供しながら、端材の有効活用を図るという一石二鳥の活動です。北九州市内のイベントを中心に出店していますが、市外からの引き合いも増えてきました。この活動を続ける原動力は、参加した子どもたちの笑顔です。社員も、自分たちの仕事が地域や次世代に貢献できていると感じられるようになったといいます。この取り組みに参加したことをきっかけに、自分には何ができるだろうと考える社員が増えてきました。社会課題の解決に自分ごととして向き合う姿勢が、仕事へのやりがいにもつながっているようです。個人の意識変革が、組織全体の変革を促しています。この活動を継続することで、企業価値の向上にもつながると信じています」

「出張子ども大工」の模様(提供:大英産業株式会社)

――住宅事業において、GXに関連する取り組みはありますか?

「住宅事業では、2024年 に戸建て住宅が5,000棟目の節目を迎えたのを機に、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の商品提供を開始しました。ZEHとは、高断熱化と高効率設備により、年間の一次エネルギー消費量が正味でゼロまたはマイナスとなる住宅のことです。北九州市外の分譲マンションでもZEH仕様を取り入れるなど、脱炭素社会に向けた取り組みを少しずつ進めています。ZEH住宅は社会的に求められ始めており、今後の主流になっていくと考えられます。不動産業界全体でも、省エネ基準の強化や建物の性能表示の推進といった動きがあります。我々も、こうした変化に対応し、時代に合った商品を提供していく必要があります。

しかし、ZEH化に伴うコスト増加は、消費者の購買意欲を抑制する要因となっています。自社だけが突出するのではなく、業界全体で歩調を合わせて取り組んでいくことが重要だと感じています。ZEH普及に向けて、業界団体とも連携しながら、補助金の活用やコストダウンにつながる新技術の導入などを検討しているところです。社会実装までにはまだ時間を要するかもしれませんが、ゼロエネルギー住宅が当たり前になる時代は必ず到来します。そのときに選ばれる企業であり続けるために、今から地道な努力を積み重ねていくことが肝要だと考えています」

――地域に根差した企業としての役割についてはどうお考えですか?

「経営理念に掲げる『元気なまち。心豊かな暮らし』の実現に向けて、地域と共に歩むことを大切にしています。北九州エリアでは『KiTAQ WOOD』というブランドを立ち上げ、地元の木材の魅力を発信しながら、地域経済の活性化に取り組んでいます。地元の森林組合と連携し、地域材を使った住宅を提供することで、CO2の吸収と固定化に貢献したいと考えています。『地産地消』の考え方を、住宅建築の分野でも根付かせていくことを目指しています」

KiTAQ WOODロゴマーク(提供:大英産業株式会社)

――GXを進めるうえでの課題は何でしょうか?

「何より、一人ひとりの意識改革が大切だと痛感しています。なぜGXが必要なのか、地球規模の問題とどうつながるのかを理解することが重要です。社員への教育はもちろん、お客様やお取引先の方々への丁寧な説明が欠かせません。GXの理解を深め、CO2排出量の可視化を進めることが急務だと認識しています。

GXスクールへの参加をきっかけに社内の意識も高まりつつあります。できることから一つずつ積み重ねながら、ステークホルダー全体の意識醸成を図っていく方針です。業界の先導役として、他社との連携も模索しているところです。CO2排出量を測定し、可視化することで、削減につなげていくPDCAサイクルの確立が重要だと考えています。CO2排出量の算定には、サプライチェーン全体の協力が不可欠です。川上から川下まで、情報共有の仕組みづくりから始める必要があります。一企業だけでは限界があるため、業界全体で取り組むことが求められていると感じています」

――今後、大英産業としてGXをどのように推進していきますか?

「2025年度 からの中期経営計画では、GXをどう織り込むかが大きなテーマです。現中期経営計画にも織り込んでいるSDGs の延長線上に、GXを位置づける形で計画を立てています。九州・山口エリアのリーディングカンパニーとして、2032年をターゲットに具体的な道筋をつけていきます。新規事業開発にも意欲的に取り組んでおり、GXに関連する新規事業の検討も進めていく必要があります。 地元企業とのコラボレーションを通じて、北九州発のイノベーションを生み出せればと考えています」

ZEH住宅(提供:大英産業株式会社)

――GXの先にどんなビジョンを描いていますか?

「私たちは住宅供給の立場として、GXへの積極的な取り組みが、他の企業に対するメッセージになると考えています。社会の流れに後追いするのではなく、自ら率先して動きを作っていくことが重要だと認識しています。お客様に、大英産業の商品やサービスを『素晴らしい取り組みだ』と思っていただけるよう、九州・山口を代表するGX企業になることを目指しています。

商品面では、ZEH化を進めるとともに、自社商品のCO2排出量の見える化も検討しています。『大英産業は、環境に配慮した住宅を手掛ける企業』というイメージを確立することが目標です。他社とのGXに関する協業についても、前向きに検討していく方針です。例えば、自社の住宅供給量の大きさを活かし、サプライチェーン全体のCO2削減をけん引していくことも考えられます。

大英産業の強みは『まずやってみる』というチャレンジ精神にあると思います。新しいことにチャレンジし、そこから最適化する方法を考えていくことで、業界をリードしていきたいと考えています。GXを通じて、持続可能な社会の実現に貢献し、住宅業界のイノベーションを牽引する存在になることが、私たちの目指すビジョンです」

――ありがとうございました。

【まとめ】

大英産業は、SDGsの観点からさまざまな取り組みを行ってきました。今後は、地域密着型の企業として、地元の資源を活かし、ステークホルダー全体の意識醸成に力を注ぎながら、GXを推進するリーディングカンパニーになることを目標としています。あわせて、サプライチェーン全体での取り組みや新規事業展開にも注力し、九州・山口エリアから持続可能な社会の実現と脱炭素社会への移行をけん引していくことを目指します。